Voice of MUON

Music / Novel

Voice of MUON

“音のない声が今 聞こえた気がした”

🔽Academimic Museum 掲出作品 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000330.000033690.html

11/4-10 渋谷 宮下公園にてAcademimic Museum開催

小説

本作品「Voice of MUON」は素粒子ミューオンを介した地球との対話をテーマに、未知なる自然に挑む科学者の情熱を小説と楽曲で描いている。人類が誕生する遥か以前から地表に降り注いでいるミューオンは透過性という特徴を持つ。その特性を利用したミュオグラフィ技術は、火山や津波、台風の可視化など、地球の状態を知るための「新たな対話方法」と言える。この技術は、災害予測や鉱山開発など、様々な分野での活用が期待されている。

本作品は南極の火山「エレバス」を舞台として、主人公・湯川は自律型観測ロボットARARREとともに、ミューオンを用いた新たなエレバスの測定法を模索する。南極点近くの基地で見た不思議な夢で、湯川はARARREの姿を借りてエレバスの麓に立ち、宇宙から降り注ぐミューオンの光景を目にする。その幻想の中でミューオンを介してエレバスとの心の交流をはかる。

「Voice of MUON」は宇宙から飛来するミューオンという物質を用いて地球の内部構造を明らかにするという実際の研究に着想を得たフィクションである。人工物ではなく、遥か昔から恒常的に降り注いでいる物質を利用して、地球を調査するという行為自体にロマンを感じざるを得ない。今後作中にある調査や未知なる地球の領域に対してこの技術を持って明らかにされていくだろう。ミューオンから伝わる地球のメッセージを、声にならない声として我々は今後どう受け止めていくべきだろうか。

歌詞
東京大学地震研究所 田中 宏幸 教授による作品・研究解説

当作品はミュオグラフィを介した地球との対話に着想を得た作品です。

ミュオグラフィは、地球の大気圏で発生する宇宙線ミュー粒子をプローブやマーカーとして使用する一連の技術学理体系です。最近では画像だけでなく、測位、ナビゲーション、タイミング、暗号化分野も含むように拡大しており、私たちは更なる地球との対話手段を持とうとしています。人類が誕生した時よりずっと前から豪雨の如く大量に地表に降り注いでいた宇宙線ミュー粒子ですが、その存在はごく最近まで知られていませんでした。空気よりも、水よりも、もっと感じることができない、ミュー粒子は地球の過去から未来に向かう時空間上に普遍的かつ確実に存在します。ミュオグラフィによる介した地球との対話は宇宙線ミュー粒子の次の 8 つの特性を活用しています。(1)真空中での光速に近い速度。(2)通過する物質に関係なく、ほぼ直線のパスライン。(3)強力な透過性により、たとえば数キロメートルの岩石を通過可能。(4)地理的位置、季節、時間帯に依らず、ほぼ一定のフラックス。 (5) 地球上において普遍的な存在。(6) 予測不可能な到着時間。(7) 静止状態では 2.2 マイクロ秒で崩壊するが、相対論的効果によってこの時間が延長。(8) 正または負に帯電。特に、特性(2)と(3) は、ミュオグラフィにとって重要なファクターです。ミュー粒子という非ゼロ質量物体が光速近くで移動することにより、私たちから見て、ミュー粒子の時空間が潰れ、ほとんど散乱していないように見えます。そして、ミュー粒子が電子よりもはるかに重いことから、強力な透過性が出ます。光子や音の伝播にはこのような特性がありません。これがより特定した位置において地球との対話が可能となる理由の一つです。特性 (8)は、対話の容易さを実現します。例えは、ニュートリノは特性 (1) - (6) を備えていますが、電荷を帯びていないため、検出が容易で無く、対話に何億立法メートルを超えるサイズの検出器が必要となります。

ミュオグラフィはこれまで、火山、津波、台風の可視化を通して地球と対話してきました。潜在的なターゲットとして、海面温度モニタリング、海底の地殻変動や災害救助ロボットなどが挙げられています。例えば、災害救助ロボットですが、震災後の建物や老朽化した危険な建物の中を探査して写真や動画を送ってくる従来の救助ロボットは反射技術と推測航法を組み合わせ、屋内をランダムに移動します。ですが、建物や瓦礫を透過する信号がこれまで知られていなかったため、建物や瓦礫の外からロボットの位置を正確に特定できませんでした。ミュオグラフィ信号はコンクリートスラブや瓦礫を通り抜け、救助ロボットに到達します。この方法により、建物内や瓦礫下の写真とその撮影位置がリンクして、オペレーション効率が格段に向上します。

これらのような「自然現象や災害を視る」といった対話方法に加えて、人間活動に伴う「生産」のサポートと環境との両立もミュオグラフィが対象とする対話方法の一つです。昨今のグリーントランジション(GX)とデジタルトランジション(DX)の世界的な潮流により、GX&DX製品の製造に必要な希土類元素(REE)などの特定の材料を大量に採掘する必要性が高まっています。環境への影響を最小限に抑えながら鉱山を効果的かつ安全に開発するには、インダストリー4.0テクノロジーと組み合わせて鉱山間通信を介して複数の鉱山を整理するスマート鉱山システムが必要です。たとえば、インターネットクラウド環境内で動作するAIを使用することで、デジタルツインを実装して、より統一された鉱山運営を行うことができます(欧州委員会、2022年)。鉱山を貫通するミュオグラフィ信号を用いた材料、労働力、ロボットの統一座標内における統合追跡管理や鉱床透視情報をこういったデジタルツインへ組み込むことによって効率的開発が可能となり、環境負荷が低減されます(欧州委員会、2022年)。

これ以外にもミュオグラフィはさまざまな人間活動の環境負荷低減に寄与すると考えられています。例えば、地球上における建物のエネルギー消費量は増加しており、2018 年から 2050 年まで年間 1.3%の割合で増加し続けると予想されています。これらの問題に対応するため、BASと呼ばれる照明、空調システム、エレベーターとエスカレーター、給水ポンプ、ボイラー、セキュリティ監視システムなどの自動化がいくつかのビルや工場で進められており、これらのスマートテクノロジーは、電力を30%~80%削減します。ただし、無線近距離無線通信 (NFC) セキュリティには大きな懸念があるため、現在、ほとんどのBASセキュリティシステムは有線ネットワークシステムを使用した高価で複雑なソリューションに基づいています。ミュオグラフィが可能とする4次元的な高精度測位は、宇宙線到来時刻を様々な場所に転送する機能を有します。宇宙線到来時刻は真性乱数であることがわかっているので、これは、真性乱数を様々な場所にWiFi、Bluetoothなど通常の情報トラフィックを使わずに無線転送できることを意味します。ミュオグラフィにより BASのセキュリティと可用性が大幅に向上し、BASをより多くのシナリオで使用できるようになります。

また、ミュオグラフィによるロボットナビゲーションはミュオグラフィユニバーサル自律型3Dプリンターを実現します。工業製品生産は、何万点を超える多くの部品とその組み立てによって成り立っていますが、その効率化、自動化のため3Dプリンターが導入されてきました。ところが、3Dプリンターを24時間稼働させても、材料の供給や完成品の取り出し、運搬を行う作業を人手に頼る限り、完全な24時間365日稼働は実現しません。そこで導入され始めたのが自律移動型3Dプリンターですが、追跡材料、ロボットを統一された座標内に統合し、互いに同期させることができていません。これは、従来の信号では、時事刻々と変わる工場建屋内のロボットの座標を、その工場建屋を貫通して屋外、あるいは別の工場建屋内においてオペレーションされるロボットへリアルタイムに送り届けることができなかったためです。大手メーカーは生産ライン内に自律型ロボットの使用を開始しました。ミュオグラフィユニバーサル自律型3Dプリンターを統合的かつ自律的に運用することで、従来の自律型3Dプリンターを発展させることができ、それにより生産効率が高まり、環境負荷を低減できると期待されます。

温暖化等で災害リスクが増えていく中、人類の社会活動を制限することなく、環境負荷を下げていくことが今求められています。この作品は、人々に最も気づかれないが普遍的なグローバルコモンズである「宇宙線ミュー粒子」の「ミュオグラフィ」を通した価値化を比喩的に表現した作品です。

Creator’s Comment

kohe(ボカロP)

地球が生まれた時からずっと降り注いでいる粒子ミューオンの力を借りて、地球の内部構造を把握する技術をテーマとしています。 この技術を想像したとき、まるでミューオンという言葉を介して、ずっと共に歩んできた地球とついに対話ができるようになったかのようなワクワクを覚えました。 きっとそういうプリミティブな感情が、学術研究の入り口であり原動力なんだと思います。 本楽曲を通じて、そういった学術研究のワクワク感を少しでも表現できていたら幸いです。

玖馬巌(SF作家)

私たちは日々ことばによって他者と対話し、時には成功、時には失敗を繰り返しながら、相手に対する理解を少しずつ深めていきます。  本作品の主人公もその例にもれません。ただ一つ異なる点として、科学者である彼女は、科学と言う名のことばによって、地球という悠久の過去から存在している私たちの寡黙な隣人を理解しようとします。本作品を通して、そうした科学の営みの魅力について、少しでも表現し伝えることができていればこの上ない喜びです。

Inspired by

  • Tanaka, H. K. M. Instant snapshot of the internal structure of Unzen lava dome, Japan with airborne muography. Sci.Rep.6, 39741; doi: 10.1038/srep39741 (2016). S. Navas et al. (Particle Data Group), Phys. Rev. D 110, 030001 (2024)

Credit

Song / Movie
kohe
Illustration
koke
Directed by
浅井順也

作品一覧へ戻る